C氏のはなし

「孤独すぎて、公衆電話に駆け込んで、てきとうに番号を押すのね。つながって。『もしもし……誰? いたずら電話? プープープー』ってなる。

「ただ人の声がききたくて、何を話すでもなく電話をかけつづける。それも雪の日の夜に。

ブラックホールみたいな、奈落の底みたいな、ひとり。なんていえばいいかよくわからないけど。

 

「小三くらいのとき、死ぬという選択肢をなくした瞬間のことを覚えている。床屋に行って、いつもおさげをしていた髪をバッサリ切った。

「それまでどう思ってたのかは覚えてない、記憶を消したのかもしれない。

「振り返ると、そんな決断が必要だった、それくらいギリギリだったんだろうと思う。

 

「もうずっと忘れてたけど、結婚してからも、ずっとききつづけてたことがあった。『どうしてわたしを選んだの?』って。

「ためし行動がすごくて、前の男に会いに行ったりもした。それでもわたしでいいの?って思ってた。

 

「それから、子供を殴ってた。自分が殴られてたから、子供のことは絶対に殴らない、父のようにはならないって強く思ってるのに、どうしてもやってしまう。

「それが怖くて病院に行った。物語を書き換える作業がいるって言われた、けど、そのときにそれが上手くいったとは思わない。

「子供を殴ってから冷静になって、ごめんねわたしのこと殴ってっていって、泣いたりもした。

 

「そうすると、長男は「おかあさんはがんばってるよ、えらいよ」って抱きしめてくれたんだよね……。

「無償の愛を与えるのは、親じゃなくて、子供なんだよね。

「でも、長男が小三のときに、真面目な顔で、「もうぶたないで」って言ってきた。それから、もう暴力はできなくなった。ぱったりと終わった。

 

「次女に対しては、障害児の兄弟でかわいそうというアイデンティティを与えてしまったかもしれない。

「自分が子供のときにほしかったものは全部あげようと、むしろ完璧な親を目指していた。長女(障害がある当人)が入院しているときも夏は旅行だと思って、連れて行った。顔に「するべきだからやってる」って書いてあったかもしれないけど……それがダブルバインドになってしまったかもしれないけど。

「いろんな人から次女がかわいそうって非難された。でもわたしは完璧にやっていたと思うし、だから爆発した。そういう話を次女ともした。次女はさみしかったと言っていた。

「でも次女は、自分がかわいそうって思うの、卒業することにしたよって言った。へーと思った。

「わたしも、ごめんね申し訳ないと思うのをやめようと思う。

 

「ためし行動がどうして止んだかって、

「長女のことでいっぱいいっぱいだったのもあるし、ずっと一緒に住んでると、好きとか嫌いとかじゃなくなるね(笑)

「あとは、おばさんになると楽だよ。歳をとると。死ぬまでの方が早いと思うと、楽。

「こんなのは今、何の助けにもならないかもしれないけど。でも勝手に話すね。

 

「自分のこの孤独さとかしんどさはずっと一生あるよ。消えるものじゃないよ。

 

「でも、泣くほど好きな人に出会えるなんていいじゃん。子供たちにもそんな人と出会ってほしい。

「今となっては、そんな絶望みたいな孤独を味わっときなよと思う。

「一緒に住んでるんだから、一緒にいるって決めたんだと思うよ。きちんと、大切な人をたぐりよせてるじゃん。

「死ぬという選択肢がなくなったきっかけは、俺じゃないのかと思ってるだろうな(笑)

 

 

むしょうのあいをあたえるのは、おやじゃない、こども。あいしてる。

物語にして世界を書き換えるのではなく、ぼわぼわした不安を世界の接点にして、怯えたり誰かを傷つけて悲しくなったりすること。